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横浜地方裁判所 昭和63年(行ウ)25号 判決 1989年9月06日

原告 吉田禎孝

被告 神奈川県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六三年七月一日付けでなした社団法人神奈川県警親会の定款変更認可処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本案前の申立て

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は社団法人神奈川県警親会(以下「警親会」という。)の会員であり、被告はその主務官庁である。

2  警親会は、昭和六三年五月二二日に開催された同会の第三三回定時総会(以下「本件総会」という。)において、第三号議案である定款の改正(以下「本件改正」という。)の同意決議(以下「本件決議」という。)があったとして、被告に対して右同意にかかる改正案どおり定款を変更することの認可申請をなし、被告は、同年七月一日付けで右定款変更を認可する処分(以下「本件認可処分」という。)をした。

3  しかし、本件決議は左記の理由により、民法三八条一項及び警親会の改正前定款(以下「旧定款」という。)三六条に違反し、総会制度の権威を根底から侵害する違法なものであって、無効である。

(一) 警親会は、本件総会開催に当たって会員に配付した改正理由書に原告主張の定款改正理由を記載せず、失当不実な改正理由を羅列記載し会員を欺いて同意決議を求めた。

(二) 会員に対して改正定款案のみ送付し、旧定款と改正定款案を併記した書面を送付しないまま審議を求め、会員の審議権を阻害した。

(三) 本件総会当日の審議において、原告が提出した文書を読み上げて説明しようとしたところ、議長はこれを遮って本件改正案の審議を打切り、採決をしないまま突如本件改正案が可決された旨宣言した。

4  右のとおり本件決議は無効であるから、これを認可した被告の本件認可処分も民法三八条に違反する違法なものである。

5  よって、原告は本件認可処分の取消しを求める。

二  本案前の主張

本件訴えは、原告が本件認可処分のされたことを知った日から三か月を経過した後に提起されたものであるから、出訴期間を経過した不適法な訴えである。

三  本案前の主張に対する認否、反論

被告の本案前の主張事実は否認する。原告が本件認可処分を知ったのは、昭和六三年一〇月一一日である。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2記載の各事実は認める。

2  同3記載の事実のうち、警親会が会員に対して改正定款案のみ送付し、旧定款と改正定款案を併記した書面を送付しなかったことは認めるが、その余は否認する。

3  同4の主張は争う。

五  被告の主張

1  昭和六三年五月二二日に開催された本件総会は、同日現在の警親会会員数三三八四名のうち三三一名が出席し、書面による表決会員二三八一名と併せて旧定款二二条の定足数(二分の一以上)を満たしたため、適法に開催された。

2  そして、警親会の定款改正(本件改正)の承認を求める案件は、右総会の第三号議案として審議され、採決の結果、右総会の出席者三三一名と書面表決者二三八一名の合計二七一二名のうち二七一一名の賛成(反対は原告一名)があり、旧定款三六条に定める定款変更に必要な員数(会員の三分の二以上)を満たしたため、可決成立した(本件決議)。

3  そこで、警親会は被告に対し、本件決議に基づく定款変更の認可申請をなし、被告は、昭和六三年七月一日付けで本件認可処分をした。

4  以上のとおり、本件決議は有効であり、本件認可処分は適法になされたものであるから、原告の請求は棄却されるべきである。

六  被告の主張に対する原告の認否

被告の主張事実はいずれも否認し、主張は争う。

第三証拠<省略>

理由

一  本件認可処分の存在等

原告が社団法人である警親会の会員であり、被告はその主務官庁であること、昭和六三年五月二二日に開催された本件総会で本件改正に同意する本件決議がされたとして、警親会が被告に対して本件決議に基づく定款変更の認可申請をなし、被告が同年七月一日付けで右定款変更を認可する旨の本件認可処分をしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二  本案前の申立てについて

被告は、本件訴えが出訴期間を徒過した不適法なものであるとして、その却下を求めている。

しかしながら、本件記録によれば、原告は昭和六三年一〇月一五日本件認可処分の無効確認を求める訴えを提起しているところ、弁論の全趣旨によると原告が本件認可処分を知ったのは昭和六三年一〇月一一日であると認められるので、原告は、取消訴訟の出訴期間内に無効確認の訴えを提起したものということができ、このような場合、無効確認請求のうちには取消請求が含まれているものと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷昭和三三年九月九日判決民集一二巻一三号一九四九頁参照)から、原告が平成元年三月八日の本件口頭弁論期日において本件請求の趣旨を本件認可処分の無効確認から本件認可処分の取消しに改めたことも、原告が当初から求めていた取消しの趣旨を訴訟上明らかにしたものに過ぎないというべきであり、これが訴えの変更にあたるとして、右口頭弁論期日を基準に出訴期間の判断をすべきではない。

したがって、原告は本件認可処分の取消訴訟を出訴期間内の昭和六三年一〇月一五日適法に提起したもので、被告が主張する出訴期間の徒過は存しないから、被告の本案前の申立てには理由がない。

なお、社団法人の基本事項を定め、その構成員の権利義務に関する事項を規定する定款の変更は当該社団の構成員の地位に直接影響を及ぼすことになるから、本件認可処分の直接の名宛人ではないものの、警親会の会員である原告には本件認可処分の取消しを求める法律上の利益が存するというべきである。

三  本件認可処分の適否について

1  民法は、その三四条において公益法人の設立を主務官庁の許可にかからしめ、社団については、基本事項を規定する定款の作成を要求(三七条)したうえ、定款の変更についても主務官庁の認可を受けなければ効力が生じない旨規定している(三八条二項)が、その趣旨とするところは、当該事業を管轄する行政官庁が、当該社団又は財団について公益を目的とする団体として法人格を付与するに値すると判断した場合に限って公益法人として設立することを許容し、その後も定款の変更について公益の観点からその当否を判断する権能を主務官庁に留保して、公益を目的とする法人としての範囲を逸脱することのないよう規制することとしたものであり、右設立の許可及び定款変更の認可についての具体的基準が法令上何ら規定されていないことを考え併せると、右許可と認可は主務官庁の広汎な裁量に任されているものというべきである。

2  もっとも、認可とは、第三者の法律的行為の効力を補充してこれを完成せしめる行為をいうから、公益法人の定款変更に対する主務官庁の認可も、申請にかかる定款変更の内容が公益に合致するか否かを判断し、公益の観点から公益法人の定款変更の効力を補充して完成せしめる行為であるに過ぎず、基本となる定款変更が不成立であるとか、無効である場合には、たとえ主務官庁の認可がされたとしても、これにより右定款変更が有効となるものではないというべきである。

3  したがって、主務官庁としては申請にかかる定款変更の内容が公益に反するか否かを吟味すれば足り、それ以上に定款変更が有効であるか否かについてまで審査する義務はなく、その広汎な裁量権に鑑みると、申請にかかる定款変更の内容が公序良俗に反するなど明らかに公益に反すると認められるのにこれを認可したような場合でない限り裁量権の濫用又は逸脱の違法はないものというべきであるから、単に主務官庁において公益法人の定款変更手続に疑義がある等の事実を認識していたというような事情によって認可処分が違法となることはない。

4  してみると、原告が主張する事由は、本件決議の無効事由としては格別、これをもって本件認可処分の違法事由とすることはできないから原告の主張は失当であり、本件認可処分に違法の点は認められない。

四  結論

よって、被告がした本件認可処分は適法であり、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊昭 宮岡章 今中秀雄)

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